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【Piercing Memory】

 

-利用規約-

非営利である限り、自由に使ってください

営利の場合は要相談


約23分

登場人物
男:吸血鬼狩り(ハンター)の男。とある異形を探している 
主人:男が訪れた街の宿の主人。街の中での地位は上位
青年:街で男が出会った青年。まだまだ幼さが残る
ナレーター
ナイトウォーカーA、B:吸血鬼の吸血行為により異形と化した人間


配役表
最低比率 2:1:1


男(♂):
主人(♂):
ナレーター(不問):
ナイトウォーカーB(♀):


兼任推奨


青年(不問):
ナイトウォーカーA(不問):


※ナイトウォーカーの叫びはあくまで目安です


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ナレーター「薄く雲に覆われた月が草原を照らす。 風が草木を揺らす。 瞬間、草原を一つの影が駆け抜けた」


ナイトウォーカーA「フッフッフッフッ……」


ナレーター「影は息を荒げながらも、真っ直ぐ駆けていく。 何かに怯えるように、何かから逃げるように」


男「ハァッ!」


ナレーター「突如、巨大な影が草原に躍り出る」


男「ハッ! ハッ!」


ナレーター「巨大な影が月光に照らされ姿を露わにする。 馬である。 闇を写したかのような黒馬(こくば)である。
      そして、馬の繰(く)り手がいるはずの位置からは黒の外套がたなびくばかりであった」


ナイトウォーカーA「シャアア!!」


ナレーター「最初の影は馬を一瞥すると、踵を返し、大きく飛び上がった。 黄色く濁った巨大な瞳と歪に並んだ牙が月光に照らされる」


男「ハアッ!」


ナレーター「刹那、馬上から射出された三筋の銀閃(ぎんせん)が影を捉えた」


ナイトウォーカーA「ギャアア!」


ナレーター「影が撃ち落され、地に伏せもがき苦しむ」


男「貴様は当たりか、どうか……」


ナイトウォーカーA「グル……グルルル……」


ナレーター「馬上から外套を翻し、男が草原に降り立つ。 ゆっくりと、確実に、もがく影に歩み寄る。
      目深に被った黒帽子から覗く、鋭い眼光が影を射抜く」


男「チッ、やはりハズレか……」


ナイトウォーカーA「グルル……シャアア!!」


ナレーター「銀閃が煌めき、影の頭部が宙を舞った」


男「どこだ、どこにいる……」


ナレーター「男は再び馬に跨ると、草原を駆けて行った。 草原には動かなくなった影と葉を揺らす風だけが残された」

 

 

ナレーター「夜の闇に包まれた街。 その街並みは異様なほど静かである。 馬の蹄の音が冷えた空気に響く」


男「ここが噂の……」


ナレーター「男は馬から降り、馬止(まど)めに馬を繋げると、宿屋の看板が吊られた建物に近付く」


SE:ノック音


主人「……お前は人間か……?」


男「ああ、人間だ。 少し宿を借りたい」


主人「ふぅ……入ってくれ。 いや、変な質問をすまんな、近頃ここらへんも物騒でな」


男「ああ、そのようだな」


主人「最近は噂のせいで客足もぱったりだ。 どの部屋でも入れるぞ、どこがいい?」


男「そこの部屋でいい」


主人「おいおい、そこの部屋は物置で客室じゃ……」


男「金は出す」


主人「……まあ、そこがいいなら止めはしないが。 
      にしても、こんな時にこの街に来るなんてあんたも物好きだね。 何しに来たんだ?」


男「……この街の、噂の元凶を殺しに来た」


主人「ってことはあんたハンターか!? でも、化け物の討伐は中央教会に依頼したばかりで……」


男「教会の奴が殺そうと、俺が殺そうと、何も変わらんはずだ」


主人「いや、しかし……」


男「別に金をふんだくろうなんてわけじゃない」


主人「そういうわけではなくて……」


男「……なあ、このペンダントにしている牙、何の物か知ってるか?」


主人「……狼か何かの牙か?」


男「いや、これは吸血鬼の牙だ。 お前らが言う化け物、ナイトウォーカー達の主、忌むべき敵を討った証だ」


主人「そうは言っても、そんなものいくらでも……」


男「吸血鬼は、一般的に教会に伝わる手法で殺すとすぐに全身灰になる。 陽光、杭での心臓への一突き、聖水……。

  この牙も例外じゃない。じゃあ、どうやって牙を抜くか」


主人「……」


男「答えは簡単だ。 一撃で殺さなければいい。 手足を杭で縫い付け、聖水で囲み

  ゆっくりと憎しみを込めて、牙を抜く。

  最初は強気だった奴等も、次第に弱音を吐き始める。 助けてくれ、お前に力をやるから。

  ああ、これが人間のすることか、なんて言ってた奴もいたな。

  そうして牙を抜いたら、心臓めがけて杭を刺すんだ。

  思い切り、憎しみを込めて、その時奴等は……」


主人「ああ、分かった分かった! もう大丈夫だ! あんたが優秀なハンターだってのは充分分かった!
   あんたに依頼するよ! ……はあ、街の役人には俺から話を通しておく」


男「感謝する。 依頼を受けるからには噂について、詳しく教えてもらいたいのだが」


主人「ああ、奴がこの町の近くに現れ始めたのはつい最近。 最初は家畜が数頭消えるだけだったんだが

   近頃は突然人が消えるようになってな……。

   俺は奴が人攫(ひとさら)いをして、どこかに隠れている主(あるじ)に生贄として捧げてると睨んでる」


男「そいつの特徴は分かるか?」


主人「夜にしか現れないから確かなことは言えんが……耳の辺りに光る飾り、ピアスみたいなものがあった、って話だ」


男「……遂に見つけた」


主人「何か因縁でもあるのかい?」


男「個人的な話だ」


主人「ああ、すまねえ。 つい癖で、な」


男「奴がどこにいるかは分かるか?」


主人「……すまねえが、街の西にある山の方へ逃げてった、とまでしか分からねえんだ」


男「いや、それだけで充分だ」


主人「流石、ハンターは……って、おい、どこ行くんだ。 休んでいかないのか?」


男「……ハンターは光で出来た濃い影に奴らが隠れる前に狩るんだ。

  荷物はここに置いておく、そこの部屋にしまっておいてくれ」


主人「ああ、任せて……って、何だこの重さは……!」

 

 

ナレーター「宿屋を後にする男。 月光に照らされたその黒い影は強い意志をたたえているように馬止めに向かう」


青年「なあ、あんた、ハンターなんだろ?」


男「……」


ナレーター「結びつけた縄を解いている男の背後から声が投げかけられる」


青年「さっき、あの宿屋で話してるのを聞いたんだ。 これから噂の化け物を探しに行くんだろ?」


男「……それがどうした」


青年「なあなあ、俺も連れて行ってくれよ!」


ナレーター「男は青年の顔を見る。 幼さの残る顔立ちではあるが

      その瞳にはどこか大人びた、確固たる意志が見てとれた」


男「何故だ」


青年「それは……宿屋の親父から聞いたろ、人が消えたって。 その中に俺の姉ちゃんがいるんだ」


男「……」


青年「もしかしたら、まだ生きてるかもしれないし、もし死んでたり……

   化け物になってたりしても、家族の俺が最後を……。

   馬もあるし、迷惑はかけない! 足手まといだと思ったら置いて行っていいから!

   それに、後を追ったから化け物が隠れてる大体の場所まで案内できるし、頼むよ!」


男「……好きにしろ」


青年「やった! 先に門の所で待っててくれ! すぐに馬を準備して向かう!」


男「はあ……」


ナレーター「男は短くため息を吐くと、馬に跨り、門へと馬首(ばしゅ)を向けた」

 

 

ナレーター「西の山へと進路を進める男と青年。 月影が二つの疾走するシルエットを映す」


青年「こうやって一緒に走ってると、なんか相棒みたいだな!」


男「相棒……か」


青年「どうかしたのか?」


男「……いや、なんでもない。 もうすぐ山の麓だ。 どこかで馬を留めるぞ」


青年「ああ、分かった。 そこから先の案内は任せてくれ」

 

 

ナレーター「山へと踏み入っていく二人。 生き物の出す音が無く、自然の山とは思えないほど静かである」


青年「流石に、夜の山は暗いな。 ランプを」


男「そのままだと目立ちすぎる。 この布を被せろ」


青年「ああ……ありがとう。 この程度の明かりであんたは大丈夫なのか」


男「俺は夜目が利く。 それに、鼻もな。 それよりも、道案内頼むぞ」


ナレーター「二人は布地から洩れる薄明かりが照らす山道を進む。

      しばらく進むと視界が開け、月明かりが照らす岩場に辿り着いた」


青年「ここだよ。 ここら辺の岩場までは追えたんだけど……」


男「ここまで分かれば充分だ。 どこか安全な場所に隠れてろ」


青年「……」


男「……俺は、どんな化け物だろうが確実に殺す。 元が誰であろうとだ」


青年「……すまない。 ありがとう」


ナレーター「月明かりに照らされた岩場の中心に立つ男。 まるで何かを待っているかのようでもある」


男「……襲っては、来ないか」


ナレーター「鼻を何度か鳴らす男。 その視線は獣のように鋭く周囲を走る」


男「……この臭い、こっちか」


ナレーター「岩場の陰に紛れるように進む男。 やがて、小さく口を開けた洞窟に辿り着く」


男「ここか……」


ナレーター「鞘から剣を抜き、慎重に洞窟へと足を踏み入れる男。 歩を進める度に湿った音が洞窟内を反響する」


男「ここが行き止まりか……。 無数の骨に血の染み着いた地面。 結局は、どこも同じ、か。

  ……いや、違うな。 動物の骨しかない……のか。 人間はどこに……?」


ナレーター「屈み込み、地面に散乱した骨を見やる男の背後に、粘着質な足音が響く」


男「チッ……罠か」


ナイトウォーカーA「ヴルルル……」


ナレーター「入り口からの薄明かりに照らされた二体の異形が、男の前に立ち塞がる」


ナイトウォーカーA「グルルアア!」


ナレーター「瞬間、一体が飛びかかる」


男「ハアッ!」


ナレーター「銀の軌跡が異形を上下に両断」


男「逃がすか!」


ナレーター「広所へと退こうとした異形の頭部を投擲された剣が捉える。

      岩に何かが激突する音が響く。 そして、再び静寂が訪れた」


男「こいつは……はずれ。 こいつも……はずれか」


ナレーター「両断された上半身、岩に縫い付けられた異形、両方の頭部を確認し、男は小さく溜息を吐いた」


男「チッ、どこにいる……」


ナレーター「ふと東の方角を見ると、空が赤く燃えている。 凶兆を告げる紅(くれない)」


男「まさか……。 おい、ボウズ、どこにいる! ……クソ」


ナレーター「山道を疾風のように駆けていく男。 空の赤は尚も揺らめいている」


男「馬はそのままか。チッ……無事でいろよ」


ナレーター「男は馬に跨ると、一陣の風となり街へと駆けた」

 

 

男「ハッ! ハッ!」


ナレーター「街への距離が短くなるほどにその異様がありありと見て取れた。

      所々から火の手が上がり、悲鳴が熱気を帯びた風と共に男の耳へと届く」


男「クソ……町一つ潰す気か」


主人「あ、あんた! 助けてくれ!」


男「クッ! どう、どう!」


ナレーター「突如、街へと突入した男の前に宿屋の主人が飛び出す。 男は興奮状態に陥った馬をなだめる」


主人「あんたが街を出てしばらくしたら、化け物どもが襲ってきて……!」


男「落ち着け! 化け物はどこに……」


ナイトウォーカーA「キシャアアア!」


主人「ひいい!」


男「ぐあっ!」


ナレーター「馬上の男めがけて飛び掛かってきた異形に、男は馬から振り落とされた」


ナイトウォーカーA「シャア!」


男「クソッ!」


ナレーター「覆いかぶさる形で男の動きを封じた異形は、蝙蝠(こうもり)の頭骨のような頭部から伸びた鋭い牙で男を狙う」


男「これでも……くらえ!」


ナイトウォーカーA「ギャルア!」


ナレーター「腰から抜いた短剣が異形の胴を貫く。 よろめいた異形の眉間を再び短剣が貫いた」


主人「あ、あんた、大丈夫か?」


男「ああ、問題ない。 こうやって街に攻撃してきたってことは、確実に裏で操ってる奴が近くにいる。 心当たりは」


主人「何分突然だったもんで……。 ああ、でも、ここらじゃ見ないやつが街の広間に……」


男「街の広間か……」


ナイトウォーカーA「ギシャアアアアアアア!」


ナレーター「突如、絶命していたはずの異形が絶叫する。

      それに呼応するかのように町中の至る所から吠え声が上がる」


男「最後の力で仲間を呼んだか……! おい、荷物はあの部屋に置いてあるか!」


主人「あ、ああ」


男「どこかに隠れてろ!」


主人「あ、ああ!」


ナレーター「主人が物陰に逃げ込むと同時に、路地裏、天井、屋内、様々な場所から異形が現れる。 その数七」


ナイトウォーカーA「グルルアア!」


ナレーター「一体が叫び声をあげ動き出すと同時に、他もそれに追随する」


男「ハァ!」


ナイトウォーカーA「ギャアア!」


ナレーター「飛び掛かってくる個体だけを切り捨てながら、男は宿屋へと駆ける」


ナイトウォーカーA「シャアア!」


男「クッ!」


ナレーター「異形達の手数に男の傷が増えていく」


ナイトウォーカーA「シャルルアア!」


男「フッ!」


ナレーター「同時に飛び掛かってきた異形を地を這うように避け、宿屋へ飛び込む男。 異形達が宿屋へと殺到する」


ナイトウォーカーA「グルアアア!」


ナレーター「訪れる静寂。 次の瞬間、爆音と共に宿屋の壁が吹き飛ぶ。

      爆発により千切れた四肢が宙を舞う。 硝煙(しょうえん)の臭いが辺りに立ち込めた」


男「……ゴホッ、火薬の臭いは嫌いなんだ」


ナレーター「男は脇に抱えた砲筒(ほうづつ)を落とすと、街の広間へと向かった」

 

 

男「ハッ、ハッ、ハッ……」


ナレーター「疲労により、ふらつきながらも男は駆ける。

      広間へ着くとそこには炎に照らしだされる二つの影があった」


青年「……あの爆発の音はお前か。 随分早かったじゃないか」


ナレーター「あの青年であった。 その脇には力なく項垂れた女性が抱えられている」


青年「あの二匹でそこまで足止め出来るとは思ってなかったけど

   もう少しあの山で僕を探してくれると思ったんだけどなあ」


男「……貴様」


青年「よっと……君みたいな優しい優しいハンター様ならねえ」


ナレーター「青年は女性を無造作に放ると、仰々しく語る」


青年「まさか、僕に従わずに逃げた奴を探しに来たら、こんないい街を見つけて

   しかも、君にまた会えるなんてねえ」


男「……貴様、何者だ」


青年「ああ、この顔じゃ分からないか。 この顔なら……分かるだろ?」


ナレーター「青年の顔が粘着質な音と共に、青白く血走った瞳の壮年の顔に変わり、元に戻る」


男「……!?」


青年「君に最後にあったのは、さっきの顔で」


男「貴様ああああ!」


青年「おっと、そうはいかないよ」


ナイトウォーカーA「シャアアア!」


ナレーター「青年へと怒りの形相で向かう男を遮る様に、倒れていた女性が異形化し襲い掛かる」


男「ハアッ!」


ナレーター「袈裟に異形を切り捨て、剣の切っ先が青年の喉元へと迫るその瞬間」


ナイトウォーカーB「シャアアア!」


男「グアッ!」


ナレーター「頭上から飛び掛かってきた異形に背後から組み敷かれる」


ナイトウォーカーB「グルアア!」


男「クッ……」


青年「おっと、ストップだ」


ナレーター「青年の声に反応し、異形の動きが止まる」


男「何のつもりだ……」


青年「いやなに、感動の再会なんだから、ゆっくりと堪能させてあげようと思ってね」


男「……まさか!?」


ナレーター「男が身をよじり、異形を見上げると、耳であろう場所に輝く光が見えた。 ピアスだ」


男「……貴様!」


青年「いやはや、感動の対面だ。 気分はどうだい?」


ナレーター「青年が下卑た笑みを浮かべながら、男に顔を近付ける」


男「……ペッ……くたばれクソ野郎」


青年「ハハハ……。 殺せ」


ナレーター「顔を拭い、男に背を向け、異形へと指示を下す」


ナイトウォーカーB「シャアア!」


ナレーター「異形の鋭い爪が男の頭部へと振り下ろされる」


男「……アンナ、約束を果たしに来た」


ナイトウォーカーB「シャアア……」


ナレーター「男の呟きに反応し、異形の手が止まる」


男「……あの住処を見て分かった、お前はずっと支配から逃れようと、欲望に打ち勝とうとしてたんだな」


ナレーター「異形の手が震え始める」


男「……お前の苦しみ、ここで終わらせてやる」


ナイトウォーカーB「グルア、アアアアア!」


ナレーター「突如として、頭を押さえ苦しみ悶える異形」


男「ハアァァ!」


ナレーター「刹那、銀閃が十字を描き、異形の体を切り裂いた」


青年「!?」


ナレーター「青年が異変に気付き振り向いた次の瞬間、目前まで迫った男の剣が胸を捉えた」


青年「ぐあああ!」


男「ハァァァァ!」


ナレーター「胸を貫いた剣の軌道は、真っ直ぐと広場の中心に据えられた石柱へと向かっていく」


青年「ぐああっ!」


ナレーター「石柱ごと貫かれ、磔にされる青年」


男「ハア……ハア……」


青年「クソ、クソ、クソ! お前だけでもッ! シャアアアア!」


ナレーター「青年の頭部が醜い異形へと変貌し、不揃いな牙が男の首を狙う」


青年「シャア…ガッ!?」


男「これでも、食っとけッ!」


ナレーター「男は迫る口内へと球体を押し込み、短剣で頭部を石柱に縫い付ける。

      球体から伸びる縄が火花を散らしていた。 爆弾だ」


青年「ガッ……グガ……ガァァァッ!?」


ナレーター「天へと伸びる爆発。 吹き荒ぶ爆風。

      火薬に混ぜられた銀粉が輝きながら舞い散る。 広場の中心は跡形もなく消し飛んでいた」


男「……やっと約束を果たせる」


ナイトウォーカーB「グル……グルル……」


ナレーター「ふらふらとした足取りで倒れ伏す異形へ向かう男。

      その瞳は覚悟と悲哀を同時に抱えているように見えた」


男「……本当に、本当にすまなかった」


ナレーター「異形の傍に屈み込み、短剣を構える」


男「……アンナ、これで、お終いだ」


ナイトウォーカーB「グルル……」


ナレーター「短剣がゆっくりと、確実に、異形の胴に突き刺さる。 男の手は震えていた」


男「……さよなら……だ……」


ナレーター「異形が絶命したことを確認すると、男は糸が切れた人形のように地に倒れ伏す。

      その顔はどこか満足げであった」

 


主人「おーい、こっちだ、こっち! その木材はそこに……。

   ああ、そいつはそこに……って、あんたもう動いても大丈夫なのか?」


男「ああ、世話になったな」


ナレーター「街の復興の陣頭指揮を執る宿屋の主人の元へ、男が現れる」


主人「いやー、宿の壁が無くなってた時は驚いたが、今俺や街がこうやって無事なのもあんたのおかげだ。

   お偉いさんは逃げるか、死んだかしちまった以上、俺達が頑張って街を直していかないとな!」


男「……そうか」


ナレーター「復興にあたる者達へ檄を飛ばす主人を、男は感慨深げに見つめる」


男「俺は別の場所……獲物を探しに出る」


主人「……そうか。 もっとゆっくりしていってもいいんだが、ハンターなら仕方ねぇな。

   ああ、そうだ。 報酬を……」


男「いや、それは街の復興に充ててくれ」


主人「本当に、いいのか?」


男「ああ、構わない」


主人「……そうか、すまないな。 ん、あんた、ピアスなんかしてたか?」


男「……これか。 これは、そうだな、ただの思い出だ」

 

 

男「ハッ! ハアッ!」


ナレーター「草原を一陣の風が駆ける。男は再び戦いへと向かっていく。 だが、その顔は、どこか晴れやかであった」

 

End


 

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